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大阪地方裁判所 昭和37年(保モ)2884号 判決

判   決

大阪市阿倍野区帝塚山一丁目一〇七番地

債権者

泉岡宗三

(ほか十一名)

右債権者ら一二名訴訟代理人弁護士

前堀政幸

大塚正民

大阪市北区絹笠町一六番地

債務者

大江ビルデイング株式会社

右代表者代表取締役

古川浩

同市東区北浜二丁三一番地

古川浩

右債務者ら両名訴訟代理人弁護士

武田蔵之助

横田長次郎

債権者らと債務者ら間の昭和三七年(保モ)第二、八八四号職務執行停止仮処異議事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

債権者らと債務者ら間の当庁昭和三七年(ヨ)第二、二八八号仮処分事件について、当裁判所が同年九月六日になした決定はこれを取消す。

債権者らの本件仮処分の申立を却下する。

訴訟費用は債権者らの負担とする。

この判決は、第一項にかぎり仮に執行することができる。

事実および理由

債権者ら訴訟代理人は、主文第一項掲記の仮処分決定を認可するとの判決を求め、その原因として債務者会社は、土地建物の所有ならびに投資および建物または付属工作物の賃貸などを目的とする発行ずみ株式総数二〇、〇〇〇株の株式会社であり、債権者らはいずれも債務者会社の株主であつてその所有株数は合計五、〇一〇株である。債務者会社は、昭和三七年八月一〇日にその定時株主総会(以下本件総会という。)を開催して、債務者古川浩を同会社の取締役に選任する旨の決議(以下本件決議という。)をなし、さらに右古川浩は同月一八日の取締役会において債務者会社の代表取締役に選任された。しかしながら、本件総会の招集手続ならびに決議の方法は左の理由から法令に違反しかつ著しく不公正であるから、本件決議は取消されなければならないものである。

すなわち、債務者会社の定款二四条によれば同会社の取締役は七名以内と定められており、これによつて債務者会社では従来から五名の取締役が選任されていたのである。そうして本件総会直前の取締役は、債務者古川浩、申請外古川明、同古川正、同白山宣太郎ならびに債権者泉岡宗三の五名であつたが、右五名のうち債務者古川浩、申請外古川明ならびに債権者泉岡宗三の三名は昭和三七年七月三一日いずれも任期が満了するので、従前の取締役数を減員すべき正当な事由の存せず、またその事由を明にせられない本件総会においては、当然に右欠員三名の選任が行われなければならないはずである。そうして債務者会社の定款二五条但書によれば、同会社の取締役の選任については累積投票によらない旨の定めがあるが、債権者ら一二名の所有株数は債務者会社の発行ずみ株式総数二〇、〇〇〇株の四分の一以上にあたるから、右の定めにかかわらず債権者らは商法二五六条の四によつて累積投票によるべきことを請求する権利を有するのである。しかるに当時債務者会社の代表取締役であつた古川浩の発した本件総会の招集通知によれば、第三号議案として「任期満了による取締役一名改選の件」とあり、しかもその提案理由として「取締役古川浩、古川明、泉岡宗三の三名は来たる七月三一日をもつて任期が満了するので、同八月一〇日の定時株主総会で取締役一名古川浩を推せん選任の提案をなし、日をあらためて古川明を取締役に選任することを総会に提案する。これは定款の趣旨にしたがい累積投票の請求を回避するがためである。」とあつたのである。そうして右の提案理由のとおり、本件総会においては債務者古川浩のみが債務者会社の取締役に選任されるに至つたのであるが、これは本来同時に補充されるべき三名の取締役の選任において、債権者らが当然に行使し得べき累積投票の請求を故意に回避した結果によるものであり、このような総会の招集手続ならびに決議の方法は、ともに商法二五六条の三および同条の四に違反しかつ債権者らにとつて著しく不公正なものである。

以上の理由から債権者らは本件決議取消の訴を提起したが、債務者古川浩をしてこのまま債務者会社の代表取締役の職務を執行させていたならば、債権者らは著しい損害を被るおそれがあるので、その職務の執行の停止と代行者の選任を求める必要がある。

また債務者会社は、さらに申請外古川明をその取締役に選任するためおよび債務者会社が発行する株式の総数を増加するために、昭和三七年九月八日午前一〇時に同会社本社において臨時株主総会を開催する旨の別紙記載のような招集通知を発しているが、右招通知の記載は不完全または不適当であり、そのうえこれを招集している債務者古川浩は前記のように瑕疵ある決議によつて取締役に選任されたのであるから、いずれの点からしても右総会の決議はたとえそれがなされても取消原因を有するものである。したがつてこのような株主総会を開催することは、債権者らはもとより債務者会社に対しても不測の損害を被られることになるのでこれを停止する必要があると述べた。

債務者ら訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決を求め、異議の理由として述べるところは要するに、債権者らの主張する事実は認めるがその法律上の見解に対してはこれを争うというにある。

本件における法律上の争点は、本件総会において債権者らが累積投票の請求をなしうる地位を有していたか否かにあると考えられる。

先ず債権者らは、従前の取締役数を減員すべき正当な事由もなくまたその事由を明かにせられない本件総会において、当然に欠員となつた三名の取締役が選任されるべきである旨主張するが、右の見解は採用することができない。むしろ前記定款の規定は、取締役の員数を法定最低数の三名以上七名以下にするとの趣旨に解すべきものであり、本件においては五名の取締役のうち三名の退任によつて法定の最低数を一名だけ欠くことになつたのであるから、右一名のみを補充すれば足りるわけである。したがつて少くとも、本件総会は同時に二名以上の取締役を選任しなければならないという場合ではない。さらに、三名の取締役の退任後新に補充されることになつた二名の取締役の選任についても、同一の総会でこれをなさねばならないものでもないので、結局本件総会を、商法二五六条の三にいう二人以上の取締役の選任を目的とする総会としなかつたことについても問題はないというべきである。そうするといずれにしても、債権者らは本件総会において累積投票を請求しうる地位を有していたものではないので、右の二名の取締役の選任手続を別個の総会ですることにした目的が、債務者会社において表明したように累積投票を避けるためであつたにしても、そのために本件総会の招集手続ならびに決議の方法が法令に違反するとか、その他債権者らに著しく不公正を生ずることのあるのは考えられない。付言すると、法令または定款に定める取締役数に同時に二名以上の欠員を生じた場合のように、当然に同一総会で右欠員数の補充が要求されるとか、またたまたま二名以上の取締役の選任が同一総会でなされることが定められた場合においてのみ、債権者らは累積投票の精求をなしうる権利を有するにすぎず、そうでなかつた本件総会では、債務者らが累積投票に関して本件決議を非難する余地はないのである。

次に、昭和三七年九月八日になさるべき臨時株主総会の開催の禁止を求める点についても、別紙招集通知の記載が特に不完全または不適当であるとも認められず、さらに右総会の招集手続に関与した代表取締役古川浩が取締役に選任された本件決議につき、取消原因の存しないことは前段認定のとおりであるから、この部分に関する債権者らの主張も認容することはできない。

そうすれば、債権者らの債務者らに対する本件仮処分申請はいずれも被保全権利がないことになるので、先に債権者らの申請を容れてなした前掲仮処分決定はこれを取消して本件仮処分申請を却下することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、仮執行の宣言について同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第一民事部

裁判官 天 野   弘

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